食品ECは伸び代がある?市場規模・課題・成功させる施策などを紹介
食品販売をしている企業の担当者には、ECに参入するにあたって、成功するか不安に感じている人も多いのではないでしょうか。
本記事では、食品ECの市場規模や課題、成功させる施策などを紹介します。ぜひ検討・導入の参考にしてみてください。
食品ECとは?
食品ECとは、インターネットを通じて食品の販売を行うネットショップを指します。これから食品ECに参入する際は、市場規模や販売形態など基礎的な情報を把握しましょう。
食品ECの市場規模
経済産業省の令和3年度電子商取引に関する市場調査の報告書によると、物販系分野のBtoC-EC市場規模は以下のとおりです。
分類 |
2020年 |
2021年 |
||
市場規模 |
EC化率 |
市場規模 |
EC化率 |
|
食品、飲料、酒類 |
2兆2,086億円 |
3.31% |
2兆5,199億円 |
3.77% |
生活家電、AV機器、 PC・周辺機器等 |
2兆3,489億円 |
37.45% |
2兆4,584億円 |
38.13% |
書籍、映像・音楽ソフト |
1兆6,238億円 |
42.97% |
1兆7,518億円 |
46.20% |
化粧品、医薬品 |
7,787億円 |
6.72% |
8,552億円 |
7.52% |
生活雑貨、家具、 インテリア |
2兆1,322億円 |
26.03% |
2兆2,752億円 |
28.25% |
衣類・服装雑貨等 |
2兆2,203億円 |
19.44% |
2兆4,279億円 |
21.15% |
自動車、自動二輪車、 パーツ等 |
2,784億円 |
3.23% |
3,016億円 |
3.86% |
その他 |
6,423億円 |
1.85% |
6,964億円 |
1.96% |
合計 |
12兆2,333億円 |
8.08% |
13兆2,865億円 |
8.78% |
引用:経済産業省 令和3年度電子商取引に関する市場調査の報告書
食品分野のEC市場規模は、2020年から2021年にかけて約3,000億円も拡大しています。さらに、規模の拡大に伴ってEC化率も増加しています。
物販系分野の全体をみてみると、食品分野のEC市場は大きいにもかかわらず、EC化率が圧倒的に低く平均以下の結果でした。食品業界ではECの活用があまり進んでおらず、導入が今後の課題といえます。
商品の販売形態
食品分野でECを活用して商品を販売する方法は様々です。自社に合う販売をするためにも、どのような販売形態があるのか把握しましょう。
主な販売形態は以下のとおりです。
販売形態 |
概要 |
一般的なECサイト |
独自ドメインを取得してECサイトを構築する方法、 ECモールに自社の店舗を出店する方法がある。 |
ネットスーパー |
スーパーマーケットがECを活用して 商品の購入から自宅までの配送を行う方法。 インターネットで注文を受けて、 最寄りの店舗から配達する。 |
定期配送のECサイト (サブスクリプション) |
定期的に商品を配達する方法。 ユーザーは定額で利用でき、 店舗に行かなくても定期的に商品が届く。 |
販売に必要な資格
インターネットを通じて食品を販売する際は「食品衛生責任者」「食品衛生法に基づく営業許可」の2つの資格が必要です。資格を取得しないと食品ECへの出店は認められません。
食品衛生責任者は、食品や添加物を製造・加工する施設において、食品の衛生を管理する人のことです。食品営業を行う際は、食品衛生責任者を定める必要があります。
資格を取得するには、都道府県知事等が行う講習会または適正と認める講習会を受講しなければなりません。調理師、製菓衛生師、栄養士などの資格保有者は、講習の受講が不要です。
食品衛生法に基づく営業許可は、ネット通販を行う際に管轄の保健所へ相談・申請をして、検査を受けた後に取得できます。地域によっては必要な許可が異なるので、保健所に相談してみてください。
食品ECが抱える課題
物販系分野の中でもEC化率が低い食品分野ですが、どのような課題があるかみていきましょう。
利便性に欠ける
食品ECは実店舗よりも利便性に欠ける部分があります。コンビニやスーパーマーケットに行くと、ほとんどのものが揃っており、必要なときにすぐ手に入るからです。
ECサイトは注文をしてもすぐに商品が届くわけではありません。購入してから商品が届くまでに時間がかかるため、すぐに商品がほしい人はわざわざECサイトで買おうとしないでしょう。
商品を直接確認できない
消費者の中には商品を目で見てから購入したいという人がいます。特に生鮮食品は鮮度が命のため、手にとって確認する人が多くいます。
購入前に商品を見てから購入したい人は、鮮度の状態が確認できない食品ECは相性がよいとはいえません。
配送コストがかかる
食品ECは倉庫・店舗から自宅まで商品を届けなければなりません。トラックによる配送を依頼する必要があり、1つの商品を届けるのにコストがかかります。ネット通販でよくある送料無料は、事業者側が負担しています。
事業者側が配送料を負担すると利益が減り、消費者側が配送料を負担すると金銭的な負担が大きくなるでしょう。実店舗運営よりも、事業者と消費者の両者の負担になってしまうため、EC化が進まない原因となります。
利益を出しにくい
食品分野は家電や家具分野よりも、1商品あたりが低単価です。加えて、食品の鮮度を保ったまま自宅に届けるなら特殊な配送が必要であり、配送エリアを拡大する場合は物流拠点の整備が求められます。そのため、実店舗よりもランニングコストが大きくなるでしょう。
また、食品は種類によって常温・冷蔵・冷凍など保存方法が異なります。食品を管理する人材のコストもかかるため、利益を出しにくいことが課題の1つです。
実店舗にない食品ECサイトを開設するメリット
様々な課題を抱える食品ECですが、実店舗にはないメリットがあります。
販売経路を拡大できる
ECはインターネットを利用する人が集客の対象です。店舗のように集客できる人が限定されず、日本全国や世界中の人に対して自社の食品を販売できます。
店舗は実際に足を運べる人が集客の対象です。販売経路を拡大しようとしても、店舗に来られる人にしかアプローチできないため限界があります。
販売時間の縛りがない
食品ECはサイト上で24時間商品の注文を受け付けられるのが特徴です。EC担当者が不在でもユーザーが商品を選んで決済まで完結します。
食品販売の店舗は24時間のところもありますが、営業時間が決まっている場合がほとんどです。ユーザーに商品を購入してもらえる時間が限定されてしまいます。
ユーザーが欲しいタイミングで注文できるECを利用すると、受注の増加につながります。
コスト削減につながる
食品ECは店舗が必要なく、サイトを構築すれば商品の販売が可能です。商品販売に必要なデータ商品管理や在庫管理などをデータ化できるため、多くの従業員を必要としません。
ECを活用すると、実店舗の運営にかかる家賃や在庫管理、人材などのコストを削減できます。
商品の魅力を伝えやすい
ECサイトには掲載できるコンテンツの制限がありません。ECを活用すれば、生産者の考えや開発背景など商品ページに詳しい説明を記載しやすくなります。消費者の購買意欲を高められて、購入数の増加が期待できるでしょう。
幅広い商品を販売できる
実店舗は商品ごとに棚が設けられており、陳列スペースに限りがあります。売れる商品のみを積極的に陳列するため、需要が低いニッチな商品は販売しづらくなります。
ECサイトは店舗のように商品の陳列棚を必要としません。サイト上に登録できる商品数に制限がないため、人気商品からニッチな商品まで幅広く販売できます。今までにないユーザーの需要を見つけられるかもしれません。
食品ECサイトを運用する際は衛生管理に注意
食品は人の身体に入るため衛生管理が欠かせません。食中毒といった健康被害が発生するとECサイトの閉鎖や賠償金の請求などの影響があります。食品を扱う際は必要な許可を取得し、適切な衛生管理をしてください。
また、食品ECサイトを運営するなら、義務表示事項(栄養成分表示や賞味期限など)をインターネット上で確認できるようにしましょう。ユーザーが誤解を招かないような内容で表示してみてくだ
さい。
食品ECサイトを開設する手順
食品ECサイトの開設手順は、通常のWebサイトとは異なります。
主な開設の手順は以下のとおりです。
都道府県によっては手順が異なるケースがあるため、管轄の保健所に確認した上でECサイトの構築を進めてみてください。
食品ECを成功させる施策
食品ECを成功させるには、工夫した施策が大切です。他社との差別化ができれば売上を確保しやすくなります。
限定品・季節品で独自性を出す
ECサイトは、コンビニやスーパーマーケットなどで買えるような商品ばかりを販売しても売上につながりません。独自性がなく実店舗や他のECサイトとの差別化ができないからです。
ECでは限定品・季節品を販売しましょう。独自性が出るため、ユーザーが手間をかけてでもインターネット上で商品を購入する理由を作れます。自社だからこそ提供できる価値を分析して商品を販売してみてください。
サブスクリプションサービスを利用する
サブスクリプションサービスで、定期的に商品を届ける仕組みを作るのも1つの方法です。1度注文が入ると継続的に購入されるため、長期にわたってサービスを利用してもらえます。リピーターを獲得でき、安定した売上につながります。
メールマガジンを配信する
集客や販売促進をする方法として、メールマガジンの配信があります。メールマガジンはユーザーに直接情報を届けられる仕組みです。
メール内で新商品やお得なキャンペーンなど紹介をすると、商品購入後にアクセスがなかったユーザーを再度ECサイトに呼び込めます。
メールマガジンで配信する内容の例は以下のとおりです。
- 新商品の情報
- セール・キャンペーン告知
- クーポン配布
- 利用期限が迫ったクーポンやポイントの通知
- 購入後・会員登録のアフターフォロー
- 誕生日月に特典の案内
ユーザーの購買意欲を高められる内容にすると、売上の増加につながりやすくなります。
クーポンを配布する
ECサイトでよく行われている施策がクーポンの配布です。オンラインショッピングに利用できるクーポンを配布して、割引できるようにすると特別感が出ます。店舗や他サイトで購入するよりもお得な価格になるようにクーポンを配布すれば、購入につながりやすくなります。
購入までの導線をわかりやすくする
ECサイトは商品を購入してもらうことが目的です。購入までの導線がわかりづらいと、よい商品を販売しても途中で離脱される可能性があります。
シンプルなサイト設計でどこに何のコンテンツ・機能があるのか一目でわかるようにして、スムーズに購入できるようにしましょう。特にショッピングカートや決済などは、ボタンのサイズを大きくしたり、目立つ色を使ったりしてみてください。
SNSを活用して集客する
ECサイトは検索エンジンだけでなく、SNSを活用すると集客しやすくなります。
立ち上げたばかりのECサイトは、知名度が低いためピンポイントでサイト名を検索されることはあまりないでしょう。
検索エンジンとSNSを併用することで集客の効果が高まります。SNSは画像を投稿できるので、魅力的な画像付きで商品を紹介し、サイト流入につなげてみてください。
食品ECサイトの成功事例
これから食品ECサイトを構築するなら成功事例を参考にしましょう。自社での活用イメージを掴んで効果的なECサイトの作成や運営ができます。
Amazonフレッシュ
画像引用:Amazonフレッシュ
Amazonフレッシュは、Amazon社が提供するプライム会員限定のネットスーパーです。1つのサイト内で食品や日用品など様々な商品が販売されています。
食品は豊富な品揃えになっており、新鮮な野菜・果物などの生鮮食品、卵、お米、乳製品、精肉、大容量・業務量の食品などが購入可能です。Amazonフレッシュはフレッシュな食材を最短約2時間で届けてくれて、朝8時〜深夜0時まで2時間ごとにお届け時間を指定できます。鮮度が命の生鮮食品でも、安心して自宅に届ける仕組みづくりをしてユーザーからの信頼を獲得しています。
また、Amazonフレッシュは初回購入から60日間使える割引キャンペーンや、定期的なキャンペーンなどを開催しているのも魅力です。お得な価格で食品を購入できるでしょう。
オイシックス・ラ・大地
画像引用:オイシックス・ラ・大地
オイシックス・ラ・大地は、オイシックス・ラ・大地株式会社が運営する食品配達サービスです。特徴はオーガニックの食品を販売している点です。一般的なスーパーマーケットでは手に入らない有機野菜や無農薬野菜を手軽に購入できることで差別化しています。
オイシックス・ラ・大地の主なサービスは以下のとおりです。
- Oisix:食卓に並ぶ食材を定期的に届ける
- 産直おとりよせ市場:全国から旬の逸品を取り寄せられる
- おいトク:飲料やお米など1つの商品を定期的に届ける
- 大地を守る会:有機農産物の宅配
- RadishBoya:有機野菜・無添加食品などを届ける
定期購入やセット販売によって、リピーターを獲得して利益につなげています。
楽天西友ネットスーパー
画像引用:楽天西友ネットスーパー
楽天西友ネットスーパーは、楽天グループ株式会社と株式会社西友が提携して運営するネットスーパーです。入会金や年会費が無料で、食品と日用品を自宅に届けてもらえます。
販売されている食品はスーパーマーケットで購入できるものが多くありますが、株式会社西友が店舗で実施する「毎日低価格」をインターネットでも行っています。店舗と同じような価格で商品を購入できるため、お得に買い物ができるでしょう。
また、5,500円以上の買い物をすると、送料が無料になる仕組みです。送料無料の料金を設定することで、合わせ買いを促す効果があり客単価を高められます。
買い物では楽天ポイントが貯まるため、ポイントを使って食品の購入も可能です。
イトーヨーカドー
画像引用:イトーヨーカドーネット通販
イトーヨーカドーネット通販は、株式会社イトーヨーカ堂が運営するサービスです。食品はもちろん、ギフト、コスメ、医薬品、日用品など幅広いジャンルの商品を取り扱っています。
イトーヨーカドーネット通販では全国各地の特産品・名産品などを購入できるのが魅力です。季節ごとにおすすめのフルーツ・野菜が販売されており、産地直産でお取り寄せができます。さらに肉類であれば、北海道産の知床牛ステーキ、山形牛ステーキなどの購入が可能です。
よなよなの里
画像引用:よなよなの里
よなよなの里は、株式会社ヤッホーブルーイングが運営するクラフトビールのECサイトです。
サイト内では定番ビールや地域限定ビールが販売されています。さらに「クラフトビール はじめてセット」「父の日ギフト」などセット販売や、自分好みのビールを選べる定期宅配も行っています。新規顧客はもちろん、リピーターの獲得にもつながっているでしょう。
また、ECサイト内には記事コンテンツや最新イベント情報なども発信しています。商品の購入以外でもユーザーに楽しんでもらえる内容であり、何度でもサイトに訪れたくなる効果があります。
食品ECのメリットや成功のコツを紹介しました
ここまで食品ECの市場規模やメリットなどを解説しました。食品分野はECの市場規模が大きいにもかかわらずEC化が進んでいないのが現状です。ECを導入するなら課題を分析して対策をすることが大切です。
適切な施策を行えば食品ECで成功する可能性を高められます。本記事を参考に、ECサイトの導入を検討してみてください。